ホームドア―視覚障害者にとって効果的な転落防止策
Index
1. はじめに
2. 鉄軌道駅における転落・接触事故の統計
3. 事故事例
4. プラットホーム上の事故防止策の重要性
5. 視覚障害者とプラットホーム上の事故防止策の歴史
6. ホームドアとは何か
7. ホームドア設置のメリット
8: ホームドア設置のデメリットと今後の課題
9. ホームドア導入に関する鉄道事業者の考え
10. 今後の視覚障害団体による鉄道事業者への賢い働きかけ
11. 鉄道利用から始まる視覚障害者の可能性
参考資料1: 「平成17年度鉄道事故等の発生状況について」
参考資料2: 「全国の鉄道・軌道線の駅におけるホームの安全柵等 設置状況」
参考資料3: 鉄道利用から始まる視覚障害者の可能性
1. はじめに
この資料は、視覚障害者のプラットホームからの転落防止策に関して、その決定的な手段ともいえる
ホームドアについて調査し、まとめたものです。
この情報は2007年8月8日時点のものです。
まず、はじめに、この資料の中で用いる用語解説をいたします。
鉄道事業者: 厳密には、国から鉄道事業の許可を得た者のことで、一般に言う「鉄道会社」とほとんど同義
と考えていただいて結構です。鉄道を運営する事業体は会社だけでなく、地方自治体、第三セクター、宗
教法人などがあり、これらを総称して鉄道事業者といいます。なお、軌道(路面電車、新交通システム、リ
ニアモーターカーなど)を運営する者を軌道経営者と呼び、鉄道事業者と軌道経営者を合わせて鉄軌道事業
者と呼ぶこともありますが、軌道経営者も含めて鉄道事業者と呼ぶことがほとんどです。この資料の中で
は、後者の使い方をします。
バリアフリー新法: 2006年12月に、駅施設等のバリアフリーを謳った交通バリアフリー法と建築物のバリア
フリーを謳ったハートビル法が統合されてできた法律。鉄道駅やターミナルなどの公共交通機関と学校や映
画館などの建築物、卸売市場等にバリアフリーの基準を満たすことを義務あるいは努力義務としています。
交通バリアフリー法やハートビル法とは違い、「身体障害者」という言葉が「障害者」と改められ、具体的
な記述は少ないものの、知的障害者や精神障害者を視野に入れたものに変わりました。また、バリアフリー
に、最低限の基準とよりレベルの高い基準の二つを明記し、高いバリアフリーの基準を満たしている建物に
は税制上の優遇措置が考慮されています。
バリアフリーの定義: バリアフリーにはリハビリテーション医学の観点からの定義や法的、あるいは哲学
的な解釈などいろいろあるかもしれませんが、この資料の中ではバリアフリーを、障害者や高齢者の安全か
つ円滑な生活を保障する施設設備全般という、あまり厳密ではない意味で使わせていただきます。
2. 鉄軌道駅における転落・接触事故の統計
今に始まったことではありませんが、視覚障害者が歩行する上で特に用心すべき場所に、鉄軌道駅のプラ
ットホームがあります。そもそも、大半のプラットホームは、雨水の排水をよくするため、線路側に向かって傾斜し
ています。転落・接触事故の多くは酔脚によるものですが、健常者でさえ歩きにくい場所で、視覚障害者に
は独特の危険が数多くあります。
視覚障害者にとって線路への転落はどれほど身近な危険でしょうか。いくつかの統計がありますが、
「弱視者も含めると半数ぐらいの人がプラットホームから」
転落し、
「全盲だけでいうと、六割、七割」
が転落しているという話しがあります。
(視覚障害者労働問題協議会会員上薗和隆さんが2006年6月13日の国土交通
委員会で参考人として発言)
国土交通省航空鉄道事故調査委員会の調べによると、2005年度に起こったホーム上での転落事故は51件、
接触事故は99件(いずれも、明らかに自殺と分かるケースは除く)です。
また、人身障害事故368件のうち3件は身体障害者の関わる事故です。(
参考資料1の「平成17年度
鉄道事故等の発生状況について」をご覧ください。)
ただし、この統計は、航空鉄道事故調査委員会の調査対象となった事故に
限られるため、実際の転落事故はこれより多く起こっていることでしょう。
また、東京視覚障害者協会まちづくり委員会のまとめによる
と、1994年から2007年5月までの間に、視覚障害者の関わる鉄道事故が34件確認されており、内訳は、転落
死亡15件、接触死亡2件、踏切死亡3件、転落重傷14件とされています。
3. 事故事例
前述のまちづくり委員会の調査などの資料を参考に、視覚障害者が転落や接触に至るいくつかのパターン
を列挙すると、次のようになります。
#1 降車の際に転落
#2 警告ブロックの誤認
#3 ホームの端の壁に当たり、向きを変えて歩き、転落
#4 ホーム上の残雪が要因となったもの
#5 乗車しようとして車両連結部に転落
#6 進入した電車に近づきすぎて接触
#7 ホームが工事中でいつもとは様子が違ったために起こったもの
#8 降車位置や降車駅の勘違いなどに起因するもの
#9 向かい側に来た電車を自分たちの側に来たものと勘違いしたもの
この他、警告ブロックが設置されていなかったなどの、不十分な設備によるものなどがあります。1992年7月3日には、大阪市営地下鉄谷町線駒川中野駅で、盲導犬ユーザーが盲導犬と共に転落する事故も起こっています。
4. プラットホーム上の事故防止策の重要性
2007年3月30日に、国土交通省の自律移動支援プロジェクト推進委員会で、長谷川貞夫さんは、駅ホームに
おけるバリアフリーの重要性を次のように語っています。
「バリアフリーの設備には、『あると便利』というレベルから、『生命の危険』のレベルまであります。
もちろん、『生命への危険』に重点を置いていただきたいと思います。」
バリアフリーには様々な課題がありますが、それらに優先順位を付けて推進していくことが現実的です。
そのことを考えると、非常に危険な事故と隣り合わせのプラットホーム上のバリアフリー化は、最も優先度の高
い課題のひとつといえます。
5. 視覚障害者とプラットホーム上の事故防止策の歴史
視覚障害者の転落事故で負傷または死亡した当事者や遺族により裁判が起こされたケースが複数あります。
国鉄や大阪市を相手にしたいわゆる上野訴訟、佐木訴訟では、
いずれも和解していますが、和解条項として、視覚障害者の転落事故の防止策を講ずることが明
記されています。これらをきっかけに多くの駅に警告ブロックの設置などが進みました。
そして、2006年6月13日の国土交通委員会では、参考人として発言した視覚障害者労働問題協議会会員の上
薗和隆さんが、国会議員に対し、
「点字ブロックというのは、皆さんが思っていらっしゃるほど私たちにと
って万能なものではない」
と語り、プラットホーム上のさらなる安全の確保の必要性を強調しました。その
発言で上薗さんは、ホームドアの設置について訴えていたのです。
6. ホームドアとは何か
2006年12月、初めて法令に「ホームドア」という言葉が登場しました。バリアフリー新法の第八条第一項の
規定に基づく国土交通省令(移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準
を定める省令)の中で、ホームドアか可動式ホーム柵、あるいは点状ブロックその他の視覚障害者の転落を
防止するための設備を設けるようにとあります。
注目すべき点は、ホームドアや可動柵が
視覚障害者の転落防止策
として位置づけられていることです。
ホームドアとは何でしょうか。ホームドアとは、ホームの淵に沿って設置されている転落防止用の壁また
は柵で、扉が付いていて、電車が来た時にだけ乗り降りできるように車両のドアと連動して開閉する仕組みにな
っています。
一般にホームドアと呼ばれるものの中には、全面が覆われているプラットホームスクリーンドアと130セ
ンチほどの高さまでの可動柵(ホームゲートとも言う)があります。また、その他に、新幹線の駅に設置されている、列車のドアとは
連動していないタイプの可動式の柵もあります。この新幹線駅の柵は、通過列車に対する風除け対策として
1977年に初めて設置されました。日本で初めてホームドアが本格的に導入されたのは神戸のポートライナー
で、1981年のことです。(ホームドアの種類と最新の設置状況については
参考資料2
の「全国の鉄
道・軌道線の駅におけるホームの安全柵等 設置状況」をご覧ください。)
スクリーンドアの場合、転落や接触の危険性はまったくありません。可動柵の場合、寄りかかった乗客が
列車に接触する危険や線路上に物を落とすなどのリスクはあります。ただし、可動柵はスクリーンドアに比
べて設置コストが9分の1程度
(産経新聞 2006年11月2日)
と安価であることや、視覚障害者にとっては列車
の接近を音で把握しやすいなどの利点があります。
停電した場合は、扉が開く仕組みになっており、また、荷物や子どもなどが列車とホームドアの二枚の扉
の間に閉じ込められないよう、センサーが付いています。障害物を検知した場合は再び開くのが普通です。
また、イヤホンなどのひも状のものが2枚の扉に挟まると危険な事態が考えられるので、ホームドアの扉が
完全に閉まった状態でも若干の隙間を設けているものもあります。
可動柵の高さは、スキーなどを立てかけても車両に接触しない程度(120センチ以上)で、なおかつ車掌
が安全確認ができる、また車内の乗客が窓から身を乗り出しても接触しない高さ(130センチ以下)が良い
とされています。
また、可動柵の上に缶ジュースなどを置いて線路上に落とすことがないよう、可動柵の上面を物を置きに
くいかまぼこ型にしているものがあります。
このホームドアを導入するには、列車を自動的に定位置に停車させるシステムの導入が必須となります。
これはATOやTASCなどと呼ばれるもので、運転士はドアの開閉と安全の確認だけを行えば良いか、または加
速はするけれどブレーキはすべて自動的にかかるというものです。あるいは、踏み切りのないポートライナ
ーやゆりかもめのように完全に無人で運転されているものもあります。
7. ホームドア設置のメリット
ホームドアを設置すると、様々なメリットがあります。転落事故や接触事故は皆無になります。2の
「鉄軌道駅における転落・接触事故の統計」
で述べた34件の視覚障害者の死傷事故のうち、踏切事故を除く31件
は、ホームドアがあれば防げたと言い切っても差し支えないでしょう。また、可動柵を後付けした都営地下
鉄三田線では、設置前には年に3、4件あった転落事故(自殺を除く)が設置後6年以上、1件も起きていませ
ん―
産経新聞 2006年11月2日。
ホームドア設置のメリットとしては他に、高度な運転制御システムを導入するために、長期的な観点から
言うと事故件数の積分値が減少するであろうこと、また、鉄道事業者側のメリットとしては、ワンマン化を
実施しやすくなり、コスト削減につながること、スクリーンドアの場合は空調が効きやすくなることなどが
挙げられます。さらに、有効な広告媒体としても注目されており、福岡市交通局では2005年度のホームドア
による広告収入が1億円を超える見込みであると2006年3月1日の毎日新聞は報じています。これは、乗客が
列車を待つまでの間前方を見ていることが多いため、視認性が高いと考えられているからです。
8: ホームドア設置のデメリットと今後の課題
2006年6月9日の国土交通委員会で梅田春実鉄道局長は、視覚障害者の転落防止策としてホームドアの設置を
猶予期間を設けた上で義務化してはどうかとの民主党の下条みつ委員の発言に対し、ホームドア設置の義務
化が困難である理由を次のように述べています。
#1 路線によって、扉の位置が異なる複数の形式の車両が走っていること
#2 ホームドアの設置によって、ホームが狭くなり、旅客の安全に支障が出る場合があること
#3 定位置に列車を自動的に停止させる装置を設置しなければならない路線もあること
などを挙げ、資金面だけでなく技術面での問題があることを示唆しました。
この他に、車両のドアとホームドアを連動させるとドアの開閉に時間がかかり、停車時間が数秒増すため、
過密ダイヤの路線には導入しにくいこと、また、ホームドアは重量がかなりあるので強度の弱いホームへの
後付けが難しいこと、運転士や車掌にとって見通しが悪くなることなどが指摘されています。
2003年に発表されたホーム柵設置促進に関する検討報告書は、今後の課題を次のようにまとめています。
#1 異なる車両扉位置に柔軟に対応できるホーム柵の開発..
#2 混雑線区での安全確認が可能なホーム柵の開発..
#3 簡易に定位置停止が可能となるシステムの開発..
#4 低コスト化の推進
さらに、2007年7月15日には、駆け込み乗車に失敗した乗客がホームドアと電車の間に挟まれ、動き出した電車
に引きずられて死亡するという事故が、中国の上海地下鉄1号線で起こっています。ホームドアには何か物
が挟まった時にそれを検知するセンサーがありますが、この感度の微調整が難しいとも言われています。
9. ホームドア導入に関する鉄道事業者の考え
2007年5月13日の読売新聞は一部、次のように報じています。
「国交省の調査に対し、鉄道各社は設置が遅れている理由として
▽列車によってドアの数や位置が異なる
▽見通しが悪くなり、安全確認がしにくくなる
▽ホームの混雑が激しくなる
ことを挙げ、『利用客の多い駅を中心に技術的に検討を要する』と説明。さらに
▽ホームドアの設置には一駅数億円かかる
▽列車の停車時間が延び、本数が減って輸送力が落ちる
ことなど資金、経営両面の問題を強調して(いる)」。
しかし、前向きな見通しもあります。交通新聞2007年7月26日号によれば、近年、
「比較的軽量で設置コストの安いホームドアの開発が進み、普及の可能性が広がった」
とのことです。また前述のとおり、ホームドアの導入によるワンマン化や広告媒体としての活用など、鉄道事業者の側に経済的な利益をもたらし得ることが分かってきました。
JR東日本の経営者も、記者会見の際に、ホームドアの導入を長期的課題のひとつとして認識している
ことを語っています。
10. 今後の視覚障害団体による鉄道事業者への賢い働きかけ
ホームドアの設置の促進のために、今まで視覚障害団体はその必要性を繰り返し訴えてきました。視覚障
害者にとってホームドアが非常に有効な転落防止策であることが初めて国会で語られたのは1991年のこと
です。決して短いとはいえない時間が経過しましたが、国土交通省や鉄道事業者がホームドアの導入に対して積極的な姿
勢を見せ始めています。
今後とも、視覚障害者団体は、ホームドア設置の要望をしていくものと考えられますが、たとえば複数の路線
を持つ事業者に訴えるなら、優先度の高い、または設置しやすい順位を洗い出し、そのリストに従って交渉
するなど、したたかで戦略的な働きかけが求められるでしょう。また、引き続き、ホームドアの必要性、プラットホ
ーム上の事故防止策の重要性を強調していくことは大切です。
11. 鉄道利用から始まる視覚障害者の可能性
最後に、鉄道は危険だから使わなければ良いではないか、という消極的な結論にならないよう、鉄道利用から始ま
る視覚障害者の可能性について述べます。
生活するのに最低限必要な部分は、本当は嫌だけれどやむを得ず
鉄道を使う、という方もおられるかもしれませんが、なかには鉄道に乗ることそのものを楽しむ視覚障害者も
大勢います。視覚障害者の中にも鉄道ファンが多くおり、各地を旅したり鉄道の音を録音するなど、様
々な形で鉄道趣味を楽しんでおられる方がいます。そのうち二つの例をご紹介いたします。
広島県の立石さんはJR全線制覇を達成し、今は私鉄や第三セクターなどの全線制覇を目指していらっし
ゃいます。千葉県の石川さんは十代で同じ趣味を持つ視覚障害者と出会い、活発に趣味を楽しんでおられ
ます。
参考資料3に、本資料のために書き下ろしていただいた立石さんの文章と、第74回全国盲学校弁論大会全
国大会で石川さんが発表された原稿を、ご本人の許可をいただき、転載いたします。
決められた時刻に従って運行され、目的地も比較的分かりやすい鉄道は、視覚障害者にとって非常に有用な移動手段であり、
一部の視覚障害者にとっては移動手段以上の意味を持ちます。
この鉄道を安全かつ円滑に利用できるとすれば、視覚障害者の生活のあらゆる面で、
行動の自由が増し、選択肢が増え、
よりいっそう文化的な生活を送ることができるに違いありません。
参考資料1: 「平成17年度鉄道事故等の発生状況について」
以下の国土交通省のウェブサイト上にあるPDFファイルをご覧ください。
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/08/081006/02.pdf
参考資料2: 「全国の鉄道・軌道線の駅におけるホームの安全柵等 設置状況」
以下のBRFC―『視障者鉄道愛好会』のウェブサイト上の表をご覧ください。
http://brfc.iinaa.net/homedoor.htm
参考資料3: 鉄道利用から始まる視覚障害者の可能性
以下の二つの視覚障害者自身の体験談をお読みになり、鉄道を利用することにより視覚障害者の生活がどれほど豊かになるかを思い巡らしてみてください。
「鉄道利用から始まる視覚障害者の可能性」
立石 敬一
我々視覚障害者の移動手段というとどうしても、鉄道やバス等、公共の交通機関を利用しなくてはいけま
せん。それらの乗り物を「単なる移動手段」に終わらせるのか、興味を持って専門的な知識を得ようとする
のかは、個人によって異なりますが、鉄道に興味がある視覚障害者というのは、比較的多いように思います。
その好きな部類にも色々とありまして、僕のような、乗り潰し派から、時刻表や雑誌等を熟読する人、また
はひたすら模型を集める人等、色々と思いますが、視覚障害者はどちらかと言えば、乗って楽しむ人の方が
多いと思います。
しかし乗るのは好きだけど、どうしても1人で出るのが怖いとか、億劫でついつい出られないという例は
良く聞く話です。それをどういうふうに克服するかは、人それぞれ違います。ガイドヘルパーを積極的に利
用する人もいれば、行った先々で駅または近くの人に尋ねていく人等、多種多様だと思います。「自立した
い」というのは誰しも考えていることであり、それなりの苦労があっても皆さん頑張っていることだろうと
思っています。しかし始めの一歩がなかなか踏み出せないようですが、1度経験してしまうと、次から外出
しやすくなり、それでどんどん視野が広がっていくのだろうと思います。そうなる為にはやはり周り(家族
の理解)が一番大切ではないでしょうか。
僕の場合を例に挙げますと、始めは、夜遅く発車する列車に乗るのは、駅で待つ間が危ないのではという
声もありました。始めはそれに従って行動しておりましたが、乗り慣れていくうちに平気で夜中に発車する
列車にも1人で乗れるようになりました。勿論、ただ乗っているだけでは面白くない。やはり誰か同じ趣味
を持つ友が欲しいという考えもありました、そんな中ちょうど『視障者鉄道愛好会』というMLが発足し、
早速入会させて頂いた訳です。このMLが出来る迄もその考えはあり、HPを立ち上げたりして何とか同じ
趣味を持つ友を探していましたが、全く効果がなくて、しまいにはHPを閉じる結果となりましたが、今こ
うやって、多くの友達と知り合いになり、スカイプというものもありますので、本当にエンジョイさせて頂
いております。
さて僕の鉄道に対する思いですが、専ら「乗りたい」というのが先立ちまして、時刻表の路線図を見なが
ら色々とコースを模索していました。不思議なもので、これをしようとした切っ掛けは特にはないんです。
鉄道路線図を見ていると「乗ってみたいな」という気持ちになったものです。これはこれでまた「行く迄の
楽しみ」というのがあります。勿論失敗も数あります。例えば計画中にダイヤ改正があり、繋がらなくなっ
たりとかです。しかし諦めず、別のルートで繋いでみたりしていました。そうするうちに時刻表の地図の細
い線が、バスルートという事に気付き、バスも含めたルートも検索してみました。これがいけるとなると、
本当に鉄道というか、乗り物に対する視野が広がったように思っています。例えば枝線(いったらその路線
を戻ってこなければいけない)の場合、その終着駅から更にバスで足を伸ばし、別の枝線の駅迄行き、そこ
からまた本線(繋がっている線)に辿り着けると、環状ルートが出来る訳です。これをこなすことにより、
全線制覇もグンと近付いた気がしていました。2004年3月28日(日)の鉄道MLの関西オフ会の後、
お付き合い頂いた桜島線の桜島駅でJR西日本全線制覇達成を始め、その後も各種JR会社を全線制覇と遂
げ、迎えた2005年5月22日、ついに最後の乗車となった弥彦線、弥彦駅に到着した時点でその夢を叶
える事が出来ました。12年かかりました。これも自分の中だけで収めておくのは勿体無いと思ったので、
僕が属している広島視覚障害者協議会(広視協)の月刊誌「ニュースつながり」にも投稿しましたし、これ
迄、いつ乗ったかという、乗車記念達成一覧表を作ったりして、「自分のオリジナル記念品」も作成しまし
た。
『視障者鉄道愛好会』MLでも分るように、そして冒頭でも少し触れたように、鉄道を楽しむ方法は十人
十色ですが、失敗を恐れず、それぞれの「目的」に向かって突き進んで欲しいものです。
確かMLにも記載したと思いますが、今度は第三セクター乗りつぶしと書きましたが、次々と廃止が囁か
れている第三セクター、これを何処迄乗りつぶせるかはまだ未定ですが、極力頑張っていこうと思っており
ます。単なる移動手段ではなく、これからもお互いが利用しやすい鉄道である事を祈りつつ。
180度の転換
石川龍海
私の全身は耳、車内のざわめきなんて全く気になりません。音の心地よさを楽しんでいると、脈拍が次第
に強くなり、何か豊かなものが自分の中からあふれてくるような感じがします。「あー、3週間ぶりに仲間
に会える」
中学生のころの私は、とても狭い世界で生きていました。ですから、一般教養や雑学が今以上に不足して
いましたし、人とかかわる機会も決して多くありませんでした。鉄道が大好きなのに、趣味を共有する友人
は誰もいません。毎日寂しい思いをしていました。
そんな私に転機が訪れたのです。高校生になった去年の5月、先生から、「ねえ、石川君。君は鉄道が好
きでしょう。仲間を探すのにもちょうどよい機会よ。それに代議員会参加は、井の中のカワズではなくなる
貴重な体験、ぜひ行ってみたら」と、関東地区盲学校生徒会連合代議員会への参加を強く勧められました。
鉄道について話せる仲間を得ることは、長年の夢です。6月、大きな期待を抱いて、私はオブザーバーとし
て会に臨みました。
「いました」。自己紹介や休憩時間のおしゃべりで見つけました。しかも2人もです。私にとっては大き
な出会い、胸が高鳴り、不思議なことにいつもと違って言葉がどんどん出てきました。1人は情報入手がす
ばやく、ものすごく知識が豊富です。JRしか知らなかった私に、多くの私鉄情報を教えてくれました。もう
1人は「視覚障害者鉄道愛好会」を紹介してくれました。それは名の通り、鉄道を趣味とする視覚障害者が
集う組織です。即座にメーリングリストに名前を登録、私の趣味の輪がさらに広がり始めました。
春休みの平日、私は単独で東武、東急、京急の旅を試みました。ところが、埼玉県の川越駅でアクシデン
ト、一心同体の白杖(はくじょう)が、薄情にも折れてしまったのです。いやー、そんな冗談を言ってられ
ません。なぜ折れたのか考えるゆとりもありませんでした。私は困りました。焦りました。あっけなく折れ
た白杖を片手に、しばし呆然としました。しかし、「なんとかしよう!」「池袋のデパートでガムテープを
買えば、つなげる」と腹をくくりました。けれども、目の前にある物や、下りの段差が測れません。緊張で
汗をぐっしょりかきながら、長時間かけて慎重に慎重にデパートにたどり着きました。そして、ガムテープ
でぐるぐる巻になった杖で計画の大半を実行しました。家に着いた途端、「ふうー」、一気に力が抜け倒れ
込みました。
早速、そのことをメーリングリストのメンバーに打ち明けたところ、「大変だったね!」「外出時は、予
備を持っていると安心だよ」などなど、励ましや生活の知恵をいただき大変参考になりました。が、一番の
収穫は変化しつつある自分自身に気づいたことです。以前の私でしたら、即座に引き返したでしょう。自力
での白杖事件解決を晴れがましく思いました。
視覚障害者の方々との交流が軌道に乗ったころ、ある小学校長さんより「平日で申しわけないんだけれど、
ぜひ、私の学校に来て話をしてほしい」と依頼がありました。それは教師である母の手伝いでJRC活動に参
加し、手引き歩行のアシスタントを務めていた日のことです。私の周囲には、「おれたちは見せ物じゃない!」
と言う人たちがいます。しかし、私はそう思いません。「一緒に生活しないからお互いによく理解できない
んだ」「ノーマライゼーションはかけ声だけではだめ、とにかく共に過ごすことが一番の早道だ」と考えま
す。
授業は欠けるし、自信もありませんでしたが、私はギターを抱えて出かけました。当日、校長先生から
「石川さんは、廃止直前の寝台特急で博多まで行ってきたんだよ」と紹介があった時、子供たちからどよめ
きが起こり、私の緊張が「すーっ」と解けました。ギターを弾き語りながら、「歩行や点字などの特別訓練
をすれば、援助を求めることがあっても、基本的なライフスタイルは普通の人と変わりません」と話しまし
た。低学年の児童には少し難しかったかもしれません。けれども、視覚障害者の生活を一人でも多くの人に
アピールする機会が与えられたことは、とても感謝しています。
高校生になり、転機を迎えてから1年が経ちました。小学生の前で偉そうに「訓練すれば何でもできます」
とは言ったものの、私自身は今でも多くの支援を必要としています。人に背中を押されて、やっと5度、
6度と振れ始めたところです。一回転すると以前の指示待ち人間に戻ってしまいますから、180度先が私の目
標の「自立」です。まだまだ先は遠く、厳しいでしょう。しかし、私は子供っぽいかもしれませんが、大好
きな電車の音に耳を傾け旅することを楽しみながら、生活空間を広げ周囲の人々に感謝しつつ、180度の
転換を目指します。